観察技術とユニバーサルデザイン
関連分野:観察技術、観察法、思考発話法、パフォーマンス測定
2009年5月1日
利用者の満足度や意見を知るためのアンケートや、インタビュー、グループインタビューでは、使い勝手への問題点の抽出が十分にできるとは言えないために、ユニバーサルデザインを目指す際の調査としては不十分であるということが、知られるようになりつつあります。
そんな中、従来の調査手法とは違ったアプローチとして、「思考発話法」や「観察法」「パフォーマンス測定」と呼ばれる、ユーザビリティ分野で発達してきた調査手法が、ユニバーサルデザイン実現のために欠かせない調査手法として、注目されるようになってきました。
こういった新しい調査手法と従来の調査の大きな違いは、「利用者の意見」を知るための調査か、「利用者の実際の思考と行動」を知るための調査かという点です。様々な利用者の思考と行動に添ったデザインにしていくことが、ユニバーサルデザインでは、とても重要な要素になるため、「利用者の意見」を知ることよりも「利用者の実際の思考と行動」を知ることが大切になるのです。この点については、今後、他の回で詳しく紹介したいと思います。
当センターでは、これらの手法を使ったUD実現のための調査を、総称して「UD検証調査」と呼び、その調査の実施タイミングによって、「UD課題抽出調査」「誤認・誤使用発見調査」「UD効果検証調査」と3つに分けています。
これら3つの調査では、調査目的と観察視点が異なります。しかし、共通しているのは、「観察技術」が必要な点です。
UD実現のための調査を「観察」するということは、利用者(被験者)をただ見るということではありません。
例えば、企画開発前に行う「UD課題抽出調査」では、その製品や建築物の問題点と改善策を、被験者の思考と行動から探る視点で「観察」を正しく行う必要があります。
同じ調査を行っても、観察者によって、気付きが多い人と少ない人がいるのは、この観察技術を習得しているかいないかの違いが大きいのです。もともと観察が得意な方(タイプ)もいらっしゃいますが、割合からすると極僅かです。ですから、観察技術の習得のためには、調査目的の確認や、視点の転換、思考と行動についての学習がまず必要になってきます。
つまり、ユニバーサルデザイン実現のための調査を正しく行うことは重要ですが、いくら調査を正しく行ってもこの「観察技術」を身に付けてから行わないと、折角の調査結果をほんの一部しか活用できなくなってしまうということがわかっています。
観察技術が身に付くということは、色々なことに「気づく視点」が身につくということです。この観察技術の重要性に気づき、会社ぐるみでスキルアップに取り組みはじめている企業はごくわずかですが、観察技術を持つ人が一人でも多くなれば、様々な利用者の思考と行動に沿ったデザインをできる人が増え、本当の意味で利用者に評価されるユニバーサルデザインが世の中に増えていくでしょう。