1〜4歳までの死亡率に対するユニバーサルデザインという答え(2)
関連分野:事故防止、ヒューマンエラー、幼児、保護者、製品、設備
2010年11月1日
前回は、「先進諸国の中でもきわめて高い、日本の1〜4歳児の死亡率」に対する取組みとして、アメリカの取組みと日本の取組みについて概要をご紹介しました。
アメリカの取組みと日本の取組みを比較すると、「ほとんど同じ仕組みなのに、なぜか、結果に大きな差が生まれる」というユニバーサルデザイン的な取組み全般に見られる特徴があるのですが、その具体的な内容について、今回と次回に別けて、ご紹介したいと思います。
まず、子どもの事故を半減させたアメリカの取組みについて、日本にも共通して言える前提知識を整理してみましょう。
- 子どもが命に関わるようなケガをした場合、「保護者がちょっと目を離した隙に」起きるため、その原因を保護者の不注意あるいは監督不行き届きと自分を責める傾向がある。一般保護者が、「ちょっとでも目を離すと危険があるような商品になっているほうが問題である」とすぐに判断することは難しい。
- 事故がおきてすぐは、子どもの救命と治療が最重要課題であり、企業に連絡を入れることは難しい。そのため、企業に情報が伝わることは稀であり、入手できる情報が極めて少ない。
- 一方、子どもが命に関わるようなケガをした場合、ほとんどの保護者が連れて行く場所が病院であり、病院には事故の情報がたくさん集まっている。
ユニバーサルデザイン的な取組みというのは、様々な取り組み方がありますが、ここで有効なのは、人は誰もがミスをするという前提に立って、物や空間をデザインするというアプローチです。
アメリカでは、病院側が保護者から事故の様子や事故の原因となった商品(製品であれば型番まで)を入手し、その情報をCPSCという国の機関に報告することになっており、CPSCから企業に直接詳細な情報と改善要望をすぐに出す仕組みになっています。また、CPSCは、「リコール」「安全基準やガイドライン」等の策定においても重要な役割を担っています。
日本では、従来「独立行政法人 製品評価技術基盤機構」や「独立行政法人 国民生活センター」で、市民からの情報収集や「リコール」「安全基準やガイドライン」等において大きな役割を担ってきましたが、医療機関との連携はほとんどされてきませんでした。
そこで、2007年度より、「経済産業省」では、子どもの"不慮の事故"を減らしていくことを目指し、「安全知識循環型社会構築事業」を 開始し、1.病院での子どもの事故情報の収集や保護者等からの情報提供による事故情報のデータベースの構築、2.集まった事故情報の、専門家・研究者による統計的な分析や子どもの行動分析による事故原因究明、3.収集分析した事故防止に役立つ情報や事故原因などの情報を、保護者をはじめ社会全体へ発信、等に取り組みはじめています。
アメリカでは全米に渡って事故の詳細データを集める病院があるのに対し、日本では初めは1軒の病院のみで、規模の小ささを指摘する声もありましたが、規模は順次拡大の予定がありますし、スタートしたこと自体は高く評価できると思います。(米国年間36万件、日本年間150−200件)
また、これらとは別主体の別のプロジェクトとして、1〜4歳児を専門に診る小児ICU、集中治療室の整備が遅れており、現在稼働しているのは全国で10病院以下で、関東では東京にあるだけという現状を解決するための試みも医療機関間で始まっているようです。
米国と日本の取り組みについて、「病院における幼児のケガの情報収集」「医療機関同士の連携」「企業への指導・リコール」「事故防止」「UD的発想」というポイントだけに焦点を当てると、日本も「機能的」には役者が揃っており、取り組み内容も同じように感じます。
何が違うのでしょうか?
答えは、「保護者」が「ケガをした子ども」を連れて病院にいき「医療従事者」が治療とともに、情報を集め、それを「第三者機関」で収集し、その情報を元に「企業」へ注意指導や情報提供を行うという一連の流れの中にあります。
次回は引き続き、その違いと、具体的な対策について、お話をしていきます。(次回が本テーマの最終回です。)